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シネマユニットガス高槻彰の事務所日記
家の近くの遊歩道にホームレスが住み着いていた。もう何年経っただろうか。ホームレスといっても小ぎれいで臭いなどせず、30代前半くらいの普通の人に見えた。おそらく土方かなにかの仕事をして喰う金くらいは稼いでいたのでしょう。いつも白地に黒の太った猫と一緒にいた。その彼にだけなついているおとなしい猫だった。
あぶない感じには見えず、また猫がいたため、よく近所の主婦に声をかけられていたようだ。聞いた話では、東京に働きに来たもののうまく折り合いがつかず、会社を辞め転々としているうちに、ホームレスになったらしい。

そのうち彼の住まいである遊歩道の屋根付き休憩所にはいきなりバリケードが張られ立ち入り禁止になる。国道沿いのマンションの主婦から苦情がきて役所が敷設したらしい。ここから出て行けということなのだろう。そこまでしなくてもいいのに、と僕は思っていた。いつも無言で人と目を合わせない彼は抵抗などするはずがなかった。しかし出て行くこともなかった。今度は同じ遊歩道のベンチに寝ることとなる。雨の日も寒い冬の夜もベンチで猫と一緒に寝ていた。

一年くらい経っただろうか。
ベンチの真ん中に、肘掛けが敷設されるようになった。そこで横になることができないように。それから彼は肘掛けで分けられた、半分のベンチを使って体を折って寝るようになった。去年の冬は寝袋で足だけ落として寝ていた。もう半分には猫が入った段ボールがあり、一つのベンチで家族のように寝ている姿は痛々しくもあり、微笑ましくもあった。

そして今日。
ベンチがバリケードで張られていた。取り払われたベンチもある。屋根付きの休憩所もずっとバリケードだから、遊歩道自体が工事中のように見える。
彼の姿はなかった。もちろん猫もいなかった。国道沿いのマンションの主婦らのクレームが役所を動かしたのでしょう。
非道いことをするなと思った。彼が哀れだった。迷惑をかけているなら仕方ないでしょう。しかしおとなしく、汚臭もない、ただの落ちこぼれ者ですよ。ただずっとそこにいるという理由だけで虐める主婦の意地悪さ。騒音オバサンの逆に見える。危なそうだから、みっともないから、子供に良くないからなどの理由で、行政に排除させる陰険さ。行政も行政です。「実質的な迷惑をかけてないから取り締まらない」と言えばいいじゃない。彼一人のために公園を閉鎖してしまうばかばかしさ。こんなつまらないことに税金を使っていいの?

昔観た映画で黒澤明の「生きる」という名作があった。余命幾ばくもないことを知った役所の役人が、困難を乗り越えて住民のために小さい公園を作って死んでいくというヒューマニズムあふれる作品だった。それは映画の世界だからといわれたらそうかもしれないが、それにしても役所にクレームをつけて、落ちこぼれのホームレスを追い出すというのは、次元が低い話だ。そういう時代なのか。
彼と猫があまりに可哀想だ。

テーマ:日記 - ジャンル:アダルト

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